議長メッセージ第12回 勇気をもって、変革への道を切り拓く

勇気をもって、変革への道を切り拓く

渋沢栄一 像

2024年から1万円札の新紙幣の肖像となる人物、現在放送中のNHK大河ドラマ「青天を衝け」の主人公と言えば、「渋沢栄一」。

「近代日本経済の父」といわれる渋沢栄一は、1840年(江戸時代)に農家の子として生まれ、幕末期には一橋家の武士に、明治政府では政府の高官となり、その後事業家として活躍します。みずほ銀行の前身銀行や多くの地方銀行、東京証券取引所、東京ガス、東京海上、王子製紙など500以上の会社を立ち上げた、近代日本の発展に多大な貢献をした人物です。

その渋沢が、思想や信念を記したのが、名著「論語と算盤」。理想のリーダー像や組織、制度のあり方、困難な人生を生き抜く方法など、今もなお多くのビジネスリーダーに読み継がれています。私事ですが、渋沢栄一を題材にした大河ドラマにはまり、渋沢の著書読破に挑戦しています。激動の時代にあって、日本社会の発展に尽くした渋沢の生き方は、不確実な時代と言われる現代を生きる私たちにとって、大きな示唆を与えてくれます。お時間のある方は、ぜひ手に取ってみてください。

血洗島、旧渋沢邸「中の家」

この「論語と算盤」が、どうして卓越したビジネス書と言われるのか。見解はさまざまですが、今から100年以上も前に、資本主義の問題点を鋭く見抜き、その解決方法を指し示しているからだと言われています。資本主義は、自分だけの利益を増やす欲望により、しばしば暴走し問題を引き起こす危険をはらんでいます。渋沢は、この本によって、その歯止めをかけるためのしくみが必要であることを示そうとした、とも言われています。

1928年、ILO(国際労働機関)のアルベール・トーマ初代事務局長と会見した渋沢の発言記録でも、そのことが読み取れます。渋沢いわく「自らが大いに寄与した我が国への資本主義と産業主義の導入は必要なことだったのであり、後悔はしていない。しかし同時に、産業主義は痛みをも伴ったものであり、私は自らのなしたことを矯正あるいは補正するために、労使交渉における労働組合の認知を助け、安定と融和の回復を促すことを、自らの義務と心得ている」と。

100年近く前の渋沢の発言ですが、この記録を見つけ、感銘を受けるとともに大きな勇気をもらいました。500以上の企業を設立した人物のこうした言葉は、労働組合活動に取り組む私たちにとって励みになりますね。

日建協は、組合員の労働実態調査や組合員の生の声を伝え、意見発信や政策提言活動に取り組んでいます。行政や業界団体、企業との社会対話は実のある働き方改革を実現するためにも不可欠です。職場や作業所で起きている課題をしっかりと捉え、解決にむけて、共に粘り強く取り組んでいく。私たちは、この姿勢を大切にしながら、社会対話に積極的に取り組み、勇気をもって変革への道を切り拓いていきましょう。

※ 2020年度の議長の部屋は、今回が最終回となります。
これまでご愛読いただいた皆さん、誠にありがとうございました。