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建設産業のワーク・ライフ・バランスを考えていく上で、女性の観点から見た建設産業のあり方、将来像といった声を収集したい、と考えこの懇談会を企画しました。
今回は、実際に作業所で「監督さん」と呼ばれながら働いている女性技術者の皆さんに集まっていただき、日頃の想いを熱く語っていただきました。

    後列左から:
    赤城久江(建設業振興基金)、本多則惠(内閣府仕事と生活の調和推進室参事官)、 堀川恵(ハザマ)、
    池尻安維(フジタ)、黒木由佳(五洋建設)、藤原佑美(五洋建設)、後藤純子(清水建設)、
    冨永幸那(清水建設)、角田沙世(清水建設)、山本幸恵(奥村組)、張舎予(奥村組)

    中列左から:
    大西知子(内閣府男女共同参画局推進課企画官)、日野陽子(ハザマ)、土田知世(清水建設)、
    菊地迪恵(大和小田急建設)、高橋加津菜(長谷工コーポレーション)、正木和美(長谷工)、
    三浦真澄(飛島建設)、春山聡子(銭高組)、寺門あすか(大谷建興)

    前列左から:
    藤原まや(戸田建設)、家地加奈子(戸田建設)、原亜希子(長谷工)、古市奈緒美(長谷工)、
    工藤彩(東洋大)、斎藤恵利香(東洋大):敬称略

今回の「日建協 女性技術者懇談会」には、日建協加盟組合から16名、建設産労懇の仲間である長谷工グループ労組から4名、合計20名の女性技術者に集まっていただきました。また、内閣府の方々、そして東洋大学の先生や学生たちにも参加いただきました。
懇談会では、日常の想い、そして将来を見据えた上で不安に思っていることや悩んでいることを中心にお話しいただきましたが、やはり皆さんの想いは、ある一点に集中していきました。

まずはみなさんに、日頃の悩みを打ち明けていただきましたが、思っていたほど、今の職場環境(体力的、労働時間)に関して悩んでいます、という方がいらっしゃらなかったのが、とても印象的でした。みなさん、大変だけれども、それ以上にやりがいのある仕事だと思って、毎日頑張られているようです。そんな中、こんな悩みを打ち明ける方も…

冨永

現場に出て職人さんと接する時は、新入社員であるとか女性であるということもあって、それが優位に働いてくれていることがあるのかな、というところが少し自分の中では引っ掛かっています。本当に段取りが上手くいって人が動いてくれるようになると良いなと思いながら、仕事をしています。

◆なるほど、すごく前向きな悩みですね。では、本人の意識と周りの対応にギャップを感じるのは、
  どういったところでしょうか?

山本

思った以上に皆さん、気を遣ってくれるのが、凄く目に見えるんですね。例えば、女性専用のトイレが無いことなどをすごく心配してくれたんですが、そういうことはあまり自分の中では気にしていませんでした。

高橋

現場配属までは、職人さん達のほうが女性監督に対して否定的かと思っていましたが、指示をすると、面倒くさくても、“高橋さんが言うんだから仕方が無いな”と皆さん、対応してくれます。

◆ある程度は覚悟してきているから、意外とギャップを感じるところは少なかったということですね。

角田

現場では、同年代の男性と同じように怒られてきましたし、男性と同じように仕事を求められてきました。とてもやりがいのある仕事だと思って今まで働いてきています。

後藤

私の方から“女の子だからって力仕事だってある程度は出来るし、10年後自分が困らないようにどんどん叱ってください”とお願いしました。今は、どんどん怒られながら仕事をしています。

職人さんなどは、やはり女性だからと重いものなどを持ってくれたり、優しくしてくれたことも多々あります。

◆女性ならではといった働きかたってありますよね。

正木

職人さん達が、仕事しやすいように段取りをキメ細かにしてあげたり、普段から“元気?”と声掛けをしてあげることで、職人さん達との信頼関係を作っています。いかに男性と同じ仕事をするかではなくて、女性として何が出来るかを考えているところです。

つぎにお聞きしたのは、将来についてです。「仕事上のキャリアプラン、将来のライフプランを考えた時、不安に思っていることは?」の問いに、やはりみなさんの想いは、結婚・出産に集中しました。「結婚・出産しても、働き続けたいですか?」と聞いたところ、ほとんどの方が手を挙げられました。

◆具体的に、どういったところが不安なのでしょうか?

堀川

妊娠している期間は絶対に現場に出られないんですね。高い所には上れなくなりますし、危ない所にも行けなくなります。施工図を担当するとか設計に行くとか積算に行くとか会社でも考えてくれるとは思いますが、すぐ役に立つわけではないですし、10ヶ月や1年で出て行くとなれば、仕事もそんなには教えてもらえないと思います。

後藤

いずれ子供が大きくなったらまた現場をやりたいと思っています。その時に会社がちゃんと戻してくれるのか、将来的にまた現場の仕事をやらせてくれるのか、その点でどれくらい自由が利くのか、という点を一番不安に思っています。

◆現場を空けてしまって第一線から離れてしまうのが怖いということでしょうか?

藤原(ま)

やはり一番は「戻れないかもしれない」ということだと思います。必ず戻れると言われたら多分安心できます。建築業界だけでなく他の業界でも、これまで「女性は妊娠したら辞めるもの」という意識が根付いていると思います。

家地

先輩の女性社員もいますが、私たちの代から女性の現場監督を採用しようと会社が打ち出してくださって、私たちが第一線という形で動いています。私も女性として子供を産んでも仕事を続けたいという思いがあります。やはりメンタル的にも不安定になったりする面もありますので、その点を会社とどうコミュニケーションを取りながら前に進むのかということを、まず考えることが大事だと思います。

菊地

現場の先輩で、託児所とかの情報を交換できる人がいないことが不安です。朝早くから夜遅くまでやっているかとか、現場が変わってもそこに迎えにいくことが出来るのかとか、そういう情報をくれる人がいないのが一番の不安です。

◆復職する時の話とか、女性の働き方がはっきり決まっていないのが、一層不安をかき立てている
  のでしょうね。
  働く女性の先輩として、何かアドバイスいただけますか?

本多参事官

皆さんは、入社して1、2年目ですから、まだ少しでも現場を離れるのが怖いんですよね。その感覚は分かりますが、10年くらい経つと半年くらいのブランクは、長い就業人生から見たらそれで別に決定的な差がつくわけではないと思えるようになります。
また、実績が無いと、会社も「この人は子供を産んだ後も働き続けてくれるのか」と不安なんですね。だから、女性でもちゃんと働き続けるという実績が積みあがっていけば会社も変わるし、皆さんそういう実績を後輩のためにも残していっていただきたいと思います。

◆実際に結婚・出産を経験した女性所長がおられる会社の方がいらっしゃいましたら、お話を聞かせ
  て下さい。

古市

入社21年目くらいの女性の現場所長がいます。学生の頃に一度お話を聞きに行きました。どういう感じで結婚して出産し、仕事を続けているのかと聞いたら、そういう制度を使った上で産休も取った、という話を聞きました。しかし、産休期間をフルに活用したかというと、当時はやはり現場に戻れなくなるのでは、という不安があったので、3ヶ月くらいしか取らなかったようです。

お腹が大きくなるギリギリまで現場にいて、事務作業をしていたそうです。後で聞いたら、取れる休みは取っておいたほうが良い、と言われました。長い人生の中で考えれば、たかが1年休んだくらいはブランクにもならないし、逆にその時間をいかに有意義に過ごすかによって、現場に復帰した時に自分のためになるものがあるんじゃないの、という話を聞いています。

後藤

当社には、現場をもう20年近くやっていてお子さんもいらっしゃる方がいます。子供を託児所などに迎えに行く時などは、職人さん等に“今日は帰るから”と声を掛けて、また次の日に頑張って仕事をこなすとか、ある程度自分で見切りを付けるというか、言いたいことははっきり言って、でも仕事もきちんとやるように気を付けている、と私に教えてくれました。

◆みなさん、先輩がいない、前例がないといったことから、やはり情報交換の場が欲しいということ
  ですね。
  そういった部分で、何か会社として取り組まれているところはありませんか?

池尻

フジタでは、F-net(エフネット)という女性社員による組織があり、ダイバーシティ推進と女性社員の横のつながり作りに取り組んでいます。会社として、ダイバーシティ推進のために制度を整備しており、最近では、男性の先輩社員で育休を取る方もいるようです。

◆では、皆さんは、会社に何をして欲しいですか?

家地

どのような事を望んでいるのかと聞かれても、前例が無く、私たちが第一線なので、将来像みたいなものはあるんですけど、何をして欲しいか漠然としている状態です。

藤原(ま)

私たちが作り上げていかないといけない状況です。会社も「女性を入れたからには何かしなければいけない」と思ってくれているようです。同期の女性だけ集められて工務部長と面談する機会があり、どうなのか聞かれた際には“結婚したいし出産もしたい。仕事も続けたい”ということはちゃんと伝えました。

三浦

結婚、出産の後で現場に戻ってきた時に、“おっ、帰ってきたな!”みたいな雰囲気が欲しいですね。帰ってきてあたり前だろうとか、そういう職場の雰囲気が欲しいです。

入社した際にも、何人かには“女性の施工監督は結婚したら辞めるか店内に入るんだぞ”と言われました。そういうことが今後ないように、最近では若手の意見を聞いて、そういう制度等を取り入れるようにはなってきていますが、私たちの代が先頭切って、どうして欲しいのか、どんどん提示して変えていきたいと思います。

後藤

私は勤務地の融通が利く会社にして欲しいです。子供が出来た時に勤務地の希望をちゃんと聞いてくれる会社になって欲しいと思います。

制度もそうですが、「安心して戻れる“雰囲気”が欲しい!」というところに、みなさん共感されていました。すごく大事なことだと思います。

菊地

建設業以外にも、朝早くて夜遅い職種はたくさんあると思います。そういう仕事をされている女性の方が、どういう育児や家庭生活をしているのか、お仕事を通じていろんな業種を見ておられる本多参事官に教えていただきたいと思います。

本多参事官

制度的には今度育児休業法が改正されて、育児休業だけでなく、職場復帰後子供が3歳になるまで短時間勤務の制度と、残業免除の制度を設けることを会社は義務付けられます。これまでは育児休業の間は良いけど、復帰してからが物凄く大変になることがありましたが、それが義務付けられるので少しは良くなるかと思います。
後は雰囲気作りがこれからの課題かもしれません。それが進んだとしても、仕事と育児を両方していくと、多分皆さんに欲求不満を感じますよ。どっちも物凄く面白くて、でも、それを女性だけでやっているとますます不満が溜まりますから、夫にもシェアしてもらう必要があります。だから、男性で育児休業を取る人が増えてくれば、女性だけの問題ではなくなりますから、少しずつ良くなるのではないかと思います。

今回の参加者のほとんどの方が、結婚や出産しても働き続けたい、とのことでした。また、企業側も作業所技術者として、女性の登用をいろいろと考え、増えてきている現状もわかりました。ただやはり、先輩が少ないので、皆さんどのように対応してよいかがわからないというのは、本人たちも企業側も同じです。

では、建設産業におけるワーク・ライフ・バランスを考えていく上で、これからどのような取り組みが必要なのでしょうか。皆さん、前例が少ない中で、自分たちが第一線として、自分のため、後輩のために頑張っていくんだ、という強い思いを持たれていましたが、やはりそれだけでは進みません。専門の部署を設立し、一歩進んだ取り組みをされている企業もあるように、本人と会社が一体となって本格的に取り組んでいく必要があります。

そして、話し合われるべきは、
「結婚・出産をしても働き続けられる制度の充実」といった部分も大切ですが、「その制度を活用しやすい職場環境ならびに職場の仲間の理解・支援」といった雰囲気作りも重要であると考えられます。
女性が働きやすい職場というのは、ひいては男性も働きやすい職場といえるのではないでしょうか?そして、女性にとって働きやすい環境作りには、男性の意識や働き方が変わることも必要です。


これまで、どちらかと言えば男性社会であった建設産業においても、当然、これからは、男性も育児や家事に携わり、育児休暇を取るケースも増えていくと思います。そういった職場環境が形成されていくことで、男女共同参画型の産業が実現し、働く者全員が働きやすく魅力ある建設産業になっていくと考えます。

皆さんからいただいた貴重な意見は、皆さんの企業経営者はもちろん、業界団体、その他産業内外にむけて意見発信していきます。
同じ建設産業で働く仲間同士のネットワーク作りを担うような企画を、日建協ではこれからも展開していきます。

Compass Vol.784 一括PDF(15.6MB)

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