―今後の高速道路整備のあり方に関するレポート―
2003年5月


は じ め に
1.社会から理解される
  公正・透明な高速道路整備のあり方をめざして
   国民への説明責任
   事業評価基準の確立
   情報の公開
   民意の反映
   不正行為の排除
   国民の意識改革
2.今後の社会変化に対応した高速道路整備のあり方
   財政状況への対応
   少子高齢化への対応
   国際化への対応
   自然環境との共存
   自然災害時への対応
3.加盟組合員から寄せられた意見
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は じ め に
 日本は戦後の国土復興の時期から高度経済成長期をへて、現在までの間、さまざまな社会資本を整備してきました。これらの社会資本は国土を発展させ、そこで生活する国民に対し、利便性、安全性などの面で多大な恩恵を与えてきました。そのなかでも、高速道路は、充実した生活や経済の発展に必要な円滑な物流の要として、また、各地への移動を容易にするネットワークとして、私たちの生活に密着している社会資本の一つであり、大きな役割を果たしています。
 高速道路は、1957年からその計画が開始され、1987年に閣議決定された第4次全国総合開発計画によって、総延長14,000kmが計画されました。その内、道路公団が建設する高速道路については、国土交通省が、整備計画路線9,342kmを決定し、国土のネットワークを構築するため、その計画にのっとり整備を続けてきました。しかし、現在、その高速道路整備が大きな転換期をむかえています。これまで財政投融資を財源とし、高速道路を建設してきた道路公団方式が、高速道路の料金収入だけでは、財投の金利プラス元金が返せなくなったことから、その組織やシステムのあり方を見直し、民営化に向けての検討が行われています。その中で、現在の道路公団のさまざまな実態が明らかになってきました。それを受け、国民の道路公団、高速道路に対する意識・関心も高まっています。
 
 この道路公団民営化問題に端を発し、「高速道路の建設は税金の無駄遣い」とする声や「高速道路の建設は不要である」さらに「公共工事そのものが不要である」といった風潮が社会に広がっています。これは、公団が抱えてきた財政投融資を財源とするコスト管理や、天下り・ファミリー企業体質による高コスト構造などのさまざまな問題が顕在化してきたことが要因の一つと考えられます。また、道路公団自身の問題以外にも、政治家の利権の問題や民間企業の政治家との癒着、談合の問題といった高速道路整備を取り巻く不透明な部分、負のイメージが、国民の意識の中に働いていることも要因と考えられます。
 これまで私たちが社会のために必死で築き上げてきた高速道路、社会資本が社会から不要と判断されたり、ひいては、そこに携わってきた建設産業全体が社会から批判されることには憤りを感じずにはいられません。日夜、作業所などに従事している私たちは、社会のため地域住民のため、厳しい自然条件と労働条件のなか、ものづくりという純粋な気持ちでこれまで高速道路を造ってきました。これからもこの産業で生きていく者として、仕事に対する誇りややりがいを守るためにも、このような社会からの批判に対し、声をあげ、現状を払拭していかなければいけないと考えます。そのためには、建設産業自身も、社会からの不信感を招くような不正な行為は、徹底的に排除していかなければいけません。まず、自ら襟を正し、不透明な体質を改めることが大前提となります。そのうえで、社会からの信頼を一日も早く回復できるよう、意見を発信していきます。

 今回、日本建設産業職員労働組合協議会(日建協)では、現在の高速道路整備をめぐる社会からの批判を払拭するため、「1.社会から理解される公正・透明な高速道路整備のあり方」とは何か、また、社会から求められる「2.今後の社会変化に対応した高速道路整備」とはどのようなものか、という観点からレポートをまとめました。このレポートは、実際に、高速道路事業に携わっている全国の加盟組合員からの意見を多く取り入れています。建設産業で働く私たちの思いを表したものです。
 私たち自身も、今まで通りのシステムで高速道路を整備し続けることはできないと考えます。しかし、高速道路は、これからの日本の発展を鑑みると重要な社会資本であることは紛れのない事実です。適正なシステムによる公正な判断のもとで、必要な社会資本は造っていかなければいけないのです。そのためには、財政も考慮しながら、今後、社会に開かれ、国民から理解される事業の計画から実施、運営までのシステムを作ることが必要です。また、今後の社会変化に柔軟に対応した高速道路整備が重要となります。


 私たちは、これまで培ってきた技術を活かし、社会のため、国民のために大いに貢献していきたいと考えています。そのためには、その土台となる事業評価基準をはじめとした、高速道路整備に関するシステムの構築が必要です。そして、国民・発注者・施工者は、お互いの責任を明確にし、その役目を果たしていかなければいけません。この三者が一体となり、国土のことを考え、お互いの責任を果たしていくことが、将来の日本の発展に大きく繋がっていくのだと思います。
 私たちは、このレポートを通し、私たちが考える公正で透明性のある高速道路整備のあり方について意見を発信していきます。そして、建設産業が社会からの信頼を回復し、私たちが自信と誇りをもって国土の発展に貢献していけるよう、提言内容の実現にむけ、活動を展開していきます。みなさまには、このレポートの内容と、私たちの思いを理解していただくとともに、今後、日本の国土が健全に発展していくよう、ともに取り組んでいただきたいと思います。
                                              2003年5月
                                             日本建設産業職員労働組合協議会

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1.社会から理解される公正・透明な高速道路整備のあり方をめざして
 現在の高速道路建設に対する社会の批判的な意見は、事業の計画段階から施工、そして施工後の運営に至るまでの一連のシステムが、国民からわかりにくく不透明であったことが要因の一つとして考えられます。高速道路のユーザーであり、その財源を拠出している国民の意見が反映されず、見えにくいところで事業が計画、決定されているとともに、その説明がなされていないのが現状です。
 また、その事業に関する費用対効果が曖昧なまま、財源が投資されています。財源としている財政投融資は、郵便貯金などを一時的に借り、高速道路の使用料金で返済を行うことになっていますが、現状では、その負債の額が大きいため、いずれは、国民からの税金を投入せざるをえない事態も考えられます。国民は、自分たちの税金が、このような不透明なシステムの中で運用されている事に対し、納得できないのは当然といえるでしょう。それを改善するためには、国民にとっての事業の意義やコストを明確にし、開かれた事業運営のルールを確立する必要があります。
 さらに、高速道路建設を取り巻く政官業の不正や高コスト構造の温床となっている道路公団の天下りやファミリー企業の問題は、国民からの不信感を助長するばかりでなく、建設産業の健全な競争を阻害し、ひいては、産業を疲弊させる大きな問題です。このような問題は、早急に改善していかなければいけません。
 社会から理解される公正・透明な高速道路整備のあり方をめざし、以下、そのための提言を行います。

すでに施工済みの高速道路や本四架橋に対する社会からの疑問に対し、その計画者、発注者である国土交通省及び公団は、事業の計画と施工に至った理由を明確に説明するべきです。

 これまでの高速道路整備は、国土交通省が整備計画路線9,342kmを決定し、計画に則り整備してきました。その計画は、将来的に必要なネットワークとしての機能を考慮し、また、地方においても利便性やライフラインとしての機能の必要性などから決定したものです。このように高速道路は、ただ闇雲に整備されてきたわけではなく、さまざまな検討を経て、必要と判断したからこそ造られてきたはずです。これに対し、計画者、発注者である国土交通省及び公団は、その計画と事業執行に至った理由を明確に説明する責任があります。現在、国民が抱いている疑問に対し、答えなければならない義務があります。工事に携わってきた私たち建設産業で働く者は、社会に貢献するという思いの中で、技術力を結集し、自信をもってこれらの構造物を造ってきました。それに対し、社会から寄せられる意見は、否定的なものが多く憤りを感じずにはいられない状況です。事業の計画者、発注者が沈黙を続けていたのでは社会からの不信感をより募らせる一方であり、批判の声を大きくするだけです。

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国民が公正で客観的な判断ができる指標として、高速道路建設の評価基準を早期に確立し、公開するべきです。

  計画者・発注者は、事業の計画段階において、国民が、客観的にその事業に対する判断ができるように費用対便益、住民生活の向上、地域の経済性、社会性、安全性、環境保全そして採算性などの指標を定め、公正・透明な事業の評価を行うべきです。そして、国民の賛同を得る必要があります。そのために、公正な事業評価のしくみを早期に確立し、国民に公開しなければいけません。

※道路関係四公団民営化推進委員会は、高速道路建設の評価基準を定めています。しかし、その内容については、一般に公開されていないため、評価基準や評価の重み付けが適正なものなのか判断できません。今後の高速道路建設を左右しかねない重要な情報でもあります。まず、高速道路のユーザーである国民に公開するとともに、その内容について十分検討を行う必要があります。早期に情報の公開を行うべきです。

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高速道路建設に伴う事業の立案から運営・維持管理に至るまでの、全ての情報を国民に公開し、国民が公正な判断のできる環境を整えるべきです。

 地域住民や国民が自分たちにとって、高速道路が必要なのかを自ら判断する場合、必要な情報が手に入らなければ意思の決定ができません。また、財源がどのように使われているのかを確認する場合にも必要な情報が開示されていなければ不可能です。事業の立案から計画の策定、民間への発注、施設の運営・維持管理に至るまでの全ての情報を公開し、あらゆるプロセスで国民が参加し、チェックができる機会と情報を提供するべきです。

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より有益な高速道路整備を行うために、国民の意見を広く取り入れ、その意向を事業の内容に反映させるべきです。

 高速道路は、財政投融資を財源とし、国民から資金を借りて建設されてきました。しかし、現在、多額の負債を抱える公団の財務状況を見ると、結局、一般会計での負担、すなわち税金での負担となる可能性が極めて高くなっています。高速道路は、国民の生活の基盤であり産業の発展を支える社会資本としても大きな役割を担っています。限られた財源の中で、より有益な高速道路整備を行うためには、受益と負担の権利と義務を持つ国民の意向を取り入れた事業の運営が必要です。

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国民からの不信感を助長させるような、政官業の不正な行為は徹底的に排除するよう、体質を改善するべきです。

  国民に不信感を与えている理由のひとつとして政治家、公団、民間企業の不透明な部分が指摘されています。政治家の利権に絡む事業決定の問題、公団のファミリー企業・天下りの問題、民間企業の政治家との癒着や談合の問題などの不正な行為は、徹底的に排除しなければなりません。
  今回、道路関係四公団民営化推進委員会の中で、公団のファミリー企業・天下りの問題について調査を実施し、その改善に向け取り組んでいます。妥協なき徹底した解決を望むとともに、政治家や民間企業の不正に対しては、罰則を強化するなど、これまで以上に厳しい取り締まりを望みます。

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高速道路整備に対し、国民も問題意識を持ち、主体的に参加していくべきです。また、高速道路は、国の大切な社会資本整備のひとつです。その必要性については、国土の発展というトータル的な視野で判断するべきです。

  高速道路整備に対し、受益と負担の権利と義務を持つのは国民です。国民も、政治家や公団に任せ、その決定に対し不平、不満を言うばかりではなく、国民一人ひとりが問題意識をもち、主体的に参加していくことが重要です。また、高速道路の必要性は、生活を営む地域によってさまざまです。地方で生活する人たちにとっては重要な高速道路でも、都会で生活する人たちにとっては直接その恩恵を受けないこともあるでしょう。高速道路整備は、自分に対する利便性だけで判断するのではなく、国土の各地域で生活する人たちのことも考慮し、社会資本整備としてトータルな視点で判断する必要があります。よりよい国土を造るためには、国民の主体性に基づいた事業の運営が必要です。

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2.今後の社会変化に対応した高速道路整備のあり方
 高速道路は、時代の流れの中、求められるものも大きく変化してきています。この流れを無視し従来のまま、高速道路を建設し続けることはできないでしょう。では、社会の変化に的確に対応した高速道路整備はどうあるべきなのでしょうか。
 これからの社会の変化として、考慮しなければいけない物には「今後の財政状況」「人口の縮小・少子高齢化」「国際化への対応」「自然環境との共存」「自然災害への対応」などがあげられます。今後の高速道路は、これらの社会変化に対応しながら整備を進めていかなければいけません。
 以下、具体的に提言を行います。

現在の道路公団の財務状況からすると、従来のまま高速道路を整備していくことは、もはや限界に達しているといわざるをえません。厳しい財務状況の中、今後の新規高速道路の建設は、地域特性を活かした最適な建設コストを考慮しながら進めていくとともに、財源については、民間活力を活用し市場の競争性を図りながら進めていくことも検討するべきです。

【機能重視への規格の緩和】
これまでの高速道路は、全国一律の道路構造基準の中で計画され建設されてきました。その中には、実際の交通状況と合致しない過大な構造や必要以上の車線数、設備などが存在しています。このように基準に縛られた一律の高速道路を建設することは、建設コストの増大をまねくばかりでなく、建設後の維持管理においても費用がかさみます。地域特性を活かした最適な建設コストを考慮し、交通量に応じた全線2車線化や構造基準の緩和を実施することにより必要以上のコストが削減され、建設費を大幅に削減することができます。ナショナルミニマムからローカルオプティマムへの転換か必要です。

【PFIなどによる民間活用】
 新規高速道路の建設にあたっては、現在の厳しい財務状況の中、財源を確保することが最大の問題となります。海外に目を向けると、民間参加型の道路整備としてPFIやBOTなどによる事業方式が進んでいます。現在の日本においてもこれらの事業方式を用い、民間活力を利用することは、新規建設の財源を確保できるばかりでなく、市場に競争性を与え、よりよいサービスを適正な価格で国民に提供することにつながります。そのためには、まず、民間参入による道路事業市場を構築するため、民間企業が、公的施設の管理を行うことができるように、事業法など現行制度の見直しを行うなど、基本的な環境づくりを早期に確立しなければいけません。また、路線によって採算がとれないことが明らかな場合には、国の補助金を利用することも検討する必要もあります。

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今後、日本の人口は、縮小の一途をたどることになります。また、急激な速さで高齢化が進んでいきます。今後の高速道路の建設は、これからの人口構造を考慮し、的確な交通需要予測を行うとともに、その変化に対応しながら進めていかなければいけません。

【人口縮小と高齢者利用への対応】
 人口の縮小とともに、高速道路の交通需要も減少していくと予想されます。交通需要の減少に伴い、これからの高速道路も変化していかなければなりません。今後の交通需要を的確に予想し、これまでの一律全線4車線での施工から全線2車線による検討も必要となってきます。また、高齢化をひかえ、高速道路利用者の安全性も考慮しなければならないでしょう。そのためには、まず、道路の線形や安全標識などの設備を見直さなければいけません。高齢者にとって安全な高速道路を計画していくことが必要です。

【地域社会の活性化、過疎化の防止】
 地方における高速道路の役割は特に重要です。鉄道などの公共交通機関が整備されておらず、高速道路ネットワークも整っていない地方では、都市とのアクセスの不便さなどから、物流が停滞し、地域経済の発展を阻害する要因となりかねません。また、現在のような都市部への一極集中は、地方を衰退させ、これからの人口減少と高齢化に伴い過疎化を招く要因にもなりかねません。現在、地方の自立が求められているなか、地域の健全な発展には、地域経済の活性化と企業展開、雇用の創出などが必要です。均衡ある国土の形成を保ち、地方で生活する住民が安心して生活していけるよう、地方における高速道路ネットワークを整備することが必要です。

※「日本の将来推計人口(2002年1月)」国立社会保障・人口問題研究所調べ
「総人口は、2006年にピークとなり、その後減少の一途をたどるとしている。生産年齢人口についても、現在の約8,600万人から2050年には約5,400万人に減少すると推定されている。また、21世紀の半ばには2.8人に1人が高齢者となり、急激な速さで少子高齢化が進んでいく。」としている。


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今後、経済のグローバル化の流れは一層加速し、アジアをはじめ、国際間の競争と連携がさらに進んでいくと思われます。日本が活力を高め、国際競争の中で勝ち残っていくためには、社会資本としての高速道路を整備していくことが重要です。

【空港、港湾などへのネットワークの強化】
 国際物流の拠点となる空港や港湾への高速道路ネットワークを整備することは、今後、国際化の中で日本が先頭に立ち、競争に勝ち残っていくためには重要なことです。道路整備の遅れによる渋滞や、分断された高速道路は、ネットワークとして十分機能しているとはいえません。恒常的な渋滞は、輸送コストを増大させ、企業の経済負担をまねいているとともに、日本全体で捉えた場合の経済的損失は膨大なものとなります。また、政府が進めている「グローバルな観光大国としての日本」を考えた場合、国際空港から目的地までの渋滞は、渋滞を知らない観光者にとって苦痛となるでしょう。海外からの観光という限られた貴重な時間の中で、その浪費を招く首都圏の恒常的な渋滞は致命的です。
 高速道路は、出発地付近から目的地まで一本でつながり、渋滞のない移動が出来て初めてネットワークといえるのです。今後、経済を発展させ国際化の中で勝ち残っていくためには、円滑な渋滞のないネットワークとしての高速道路整備は最重要となってきます。

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地球温暖化による地球環境への影響が懸念されています。今後、海面上昇などに伴う自然災害の増加や気象の変化からの水不足などが深刻な問題となってきます。また、限りある石油エネルギーについても省エネルギー対策を講じなければ、近い将来、底をついてしまうことになります。自動車からのCO2排出量を減少させるとともに、有限な石油エネルギーを節約するためにも、高速道路を整備し恒常的な渋滞を緩和しなければいけません。

【渋滞緩和による排気ガスの減少】
 平成9年12月に採択された京都議定書において、日本は温室効果ガスの排出量を1990年比で6%削減しなければいけません。これに対し政府は「地球温暖化対策推進大綱」を作成し、その中で、CO2削減のため、交通渋滞の緩和を進めています。また、都市部における光化学スモッグなどの大気汚染は排気ガスから排出される窒素酸化物と炭化水素が原因となっており、人体に有害な影響を及ぼしています。このように、大気汚染をもたらす自動車からの排気ガスは、今後の環境問題に大きな影響を与えます。自動車の二酸化炭素の排出量を低減するためにも、高速道路を整備し、恒常化している渋滞を一日も早く緩和していかなければいけません。

【石油エネルギーの有効活用】
 太古の化石燃料である石油は、限りある資源です。この石油も、現在のまま使用を続けていった場合、あと50年もすればなくなるといわれています。この有限な資源である石油を有効利用するためにも、無駄使いにつながる交通渋滞は、早期に改善しなければなりません。将来のことを考慮し、石油エネルギー節約のためにも、私たちができることは最善をつくしていくべきです。

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日本列島は、他に類を見ないほど、プレート境界が衝突しており、有数の火山地帯でもあります。世界的にも地震が多発する地域です。また、国土は南北に長く、北部は積雪、南部は台風により気象の影響を多大に受ける厳しい環境の中にあります。このような自然環境の中、災害に備え、緊急時のために高速道路を整備することは今後ますます重要となります。

【災害時のライフライン・バイパスの確保】
 地震の多い日本にとって、災害時のライフラインを確保することは重要なことです。また、北海道などの積雪の多い地方では、緊急時において、唯一の道路がなだれなどで通行ができなくなった場合、ライフラインが分断されることになります。特に、病院施設などのインフラ整備が進んでいない地方にとっては、人命にかかわる重大な問題となります。
 さらに、阪神・淡路大震災の場合を振り返ってみると、一般道路は移動する自動車で溢れかえり、交通が麻痺したことから、人命救助に支障をきたし、また、物資の調達が滞ったことなどはまだ記憶に新しいところです。このように、私たちが住んでいる日本はさまざまな災害の多い土地であり、いつ重大な災害がおきるかわかりません。人命にかかわる緊急の場合のライフライン、バイパスである高速道路を整備しておくことが重要となります。

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3.加盟組合員から寄せられた意見
 日建協では、テーマを「今後の高速道路整備・道路四公団改革のあり方について」として、加盟組合員から、意見募集及び意見交換会を実施しました。その結果、建設産業で働く者の率直な思いと、今後の高速道路整備を真剣に考える多数の意見が寄せられました。以下にその意見を掲載します。

・高速道路整備は採算性から論じるのではなく、整備すべきもしくは緊急性の高いものから順に整備すべきであり、その路線に予算の重点配分を行い迅速な建設をするのがよいのではないか。また、その建設にあたっては、社会インフラの整備という観点で考え、国費の投入も考慮に入れる必要があるのではないだろうか。

・高速道路は網目のように整備されてこそ機能する場合もあり、インフラ整備の一環として採算に乗らなくても建設すべき高速道路はある。高速道路にかかる維持管理費は利用者負担を原則として通行料を徴収する。新規の路線は国の予算で建設する。それによって通行料が下がり、物流コストが安くなることでインフラとしての役割を果たす。

・首都圏への一極集中に伴う高速道路の渋滞、またそれに付随する環境問題は都市機能を著しく疲弊させ、国際競争力の低下を招いている。東京の環状道路の不備は、大きな経済損失をもたらしている。高額の利用料を取りながら渋滞し、その機能が果たせない状態では、ますます道路行政そのもののあり方が国民の批判の的となる。

・最近の世間の見方は、“ゼネコンは道路族議員と癒着して道路建設によって莫大な利益を得ている。公団のOBを天下り先として受け入れることで、色々便宜を図ってもらっている。”といった悪のイメージである。建設工事にまじめに取り組んでいる多くの建設関係者にとっては、憤りを感じる毎日である。

・今後の高速道路建設のあり方については、IC建設費用の負担など、一定程度の地元負担の考え方を進める必要がある。もちろん、その前提として財政を含めた地方分権を進めることが必要不可欠である。地方負担がまったく生じない現状では、地方自治にとっても無責任な形となってしまう。

・公団職員のファミリー企業、天下りの問題は、建設産業ひいては公共事業そのものに対する、国民からの批判を招いている。現在の所、民営化委員会の中でも、深く議論されていないようであるが、このような不正については、追求し改善していくべきではないか。建設産業も自ら改善していかなければ、社会からの信用を得ることはできないであろう。

・「道路関係四公団民営化推進委員会」は、採算性確保にとらわれすぎているように感じる。高速道路は社会資本の基盤をなすものであり、料金収入で建設費が賄えないなら、その高速道賂の必要性がないと短絡的に判断するのは由々しき問題である。社会活動の基盤、経済活動の活性化、利便性の向上など、機能面での効果を勘案して判断すべきである。

・建設途中の工事を中断するか否かを経済性の面から判断するならば、中断することで必要となってくる費用(建設資機材の撤収費用や必ず何らかの形で必要となるであろう補強工事費など)は、きっちり織り込まれなければならない。(中略)また、請負者はそれを見込んで仮設備や機械を段取りしているのに急にそれは無しと言われ、その損料分は「業者が勝手にやったこと」で損失を全て背負わされるのはおかしい。このような費用は発注者側も相応に負担すべきである。

・既設路線の通行料、サービスエリアを含めた運営権は一般競争入札により路線ごとに民間参入させる。期間を5年毎程度の再入札とし、参入競争をはかるような方法を提案する。これは建設費をもとに通行料を決めても利用車数が低い道路があり、本来の建設目的に合わないからだ。

・国民として一番問題にしなければいけない事は、自分たちの税金が、どの様に運用されているか、その結果であってその過程については小さいことである。今、世論はその過程の問題を大きく取り上げて、もっと大きな問題に目隠しをしている様だが、私は我々が車を使う為に支払っている税金が、その他の使用目的のために使用される事の方がはるかに怖い。

・都市部と地方部の問題、償還について(道路は果たして償還しなければいけないのか?)、公団の位置付け(専門業者の特定受注の問題)、民営化すればそれらの問題が解決するのか?(今のままで解決するのか?)、これらの問題は建設業だけなのか(構造改革として)まずこれらの議論ができているのかを確認したい。

・以前、“北海道は車の数より熊の数が多い”と言った大臣がいたが、主要都市を結ぶ国道が1本しかなく、その国道が毎年のように台風等による災害で通行止めとなるような現状においては、“緊急自動車の通行”や“物資の輸送路の確保”という意味で、最低でも、主要幹線の開通までは工事を進める必要があると考える。

・最近の我が国において、官民を問わず種々の事業がおかしくなっている。その一番の原因は、当事業を計画した時点の需要予測と、実需要に大きな隔たりがあることである。それは「右肩上がりの成長」を前提としたことであり、負の成長は考えもされなかった。今後の我が国は、急速な少子高齢化が進み、50年後には労働人口が半減すると言われている。インフラの整備は、30年〜50年後を予測して計画されなければならない。そのためには、 高速道路の全国一律規格は、絶対に止めなければならない。地方の高速道路は、坂道部以外は片側1車線で十分である。そして道路規格と料金を連動すれば良いと思う。

・高速道路は必要である。しかし、必要としている都市部の道路整備が遅れ、やりやすい地方部の道路整備が先行している状況で、一向に高速道路の料金が値下げされず、逆に値上がりするような建設順序が間違っている。渋滞が慢性化している地域の道路整備を優先して、交通渋滞による経済的損失を早くなくしていくことが重要である。

・インフラ整備の一環という政治判断で、経済性を考慮せずに建設するのは、現在の市民感覚からも得策ではない。しかし、都市部における高速道路の渋滞は、経済面・環境面からも道路整備は必要と思われる。まんべんなく道路整備をするのではなくメリハリをつけた判断が問われているのではないか。

・現在建設中の路線については、国の責任において完成させるべきである。ただし、今後の新規路線については、採算性を考慮し国・地方自治体と新機構が建設の是非を協議し決定するようなルールづくりが必要と思われる。

・ 高速道路網の整備にあたっては、採算性だけで決めるべきでない。採算に合わなくても必要な道路はいくらでもある。

・ インフラの整備は国家予算で行ったほうがよいのではないか(地方自治体で負担した場合、高速道路はあってもインターチェンジが付近にない都市や、通過されるだけであまり経済効果の上がらない都市における負担割合が難しい)。公団が民営化された場合、利益追求にはしるあまり、サービスの低下や安易な通行料の値上げが実施される恐れがある。

・道路関係四公団民営化推進委員会は、高速道路の建設に関係の少ないJR東日本会長、作家、評論家、大学の教授等で構成されている。専門的な知識が少ない、マスコミ受けするような人選である。ある新聞では、東京在住の一部の委員が、「東京に住んでいる私は本四架橋の恩恵を受けたことがない」という発言の記事があり、地方の痛みが把握できない委員がいるのでは、国土のバランスを考慮した社会資本整備の議論はできないのではないかと危惧した。高速道路の選定は地方の有識者を含めて構成されるべきで、採算性は当然であるが、その他に社会基盤の整備、住民の利便性の向上、地方の経済効果を含めて総合的に判断するべきである。

・高速道路は、緊急時の安全確保のためにも必要である。たとえば、大雨で川が氾濫した際、陸の孤島となる場所がある。これは、トンネルを施工することで解消された。そのトンネル工事を行っていた時、地域の住民から大変評価された経験がある。

・高速道路のネットワークとは、出発地点から高速に乗り目的地付近で料金を払うということである。以前の山陽自動車道などは、細切れに分断されており一般道におりるごとに渋滞に巻き込まれていた。これでは、ネットワークとしての高速道路とは到底いえない。

・採算性を考慮した場合、地方における高速道路建設は、機能を重視し安価なものを造るべきである。今の高速道路は、規格が統一されており快適性が高すぎる。

・高速道路の建設は、国土交通省が計画をたて、それに従い造るべきである。また、施工済みの道路で社会からその必要性について疑問視されているものについては、計画者がきちんと説明するべきである。

・ 公団の積算は、仮設費や安全費が出来高数量のなかに比率で含まれる特殊なものである。施工中の工事が途中で凍結した場合、その費用をどのように計上するのか。サービス業務とならないようはっきりさせる必要がある。
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