1999年4月から労働基準法が改正されました。
言うまでもなく労働基準法は働く私たちの労働条件の最低基準(ワークルール)を定めた法律ですが、その中身については、あまり知らないというのが実状ではないでしょうか。1947年に法律が制定されて以来、時代が大きく変わっていく中で、これほど大きく法改正されるのは今回が初めてです。

今回の改正は大きく2つに分けられます。一方が「労働時間」に関するもの、そしてもう一方が「労働契約」に関するものになっています。それでは、私たちのワークルールはどのようになったのでしょうか、見ていくことにしましょう。



「労働時間」に関するものについて
労働時間に関する法改正については
3つのポイントに絞ってくわしく見てみましょう。


時間外労働について上限がもうけられました


@延長できる時間は何時間?
会社が労働者に時間外労働をさせる場合には36(サブロク)協定を労使で締結しなくてはなりませんが、今までは、その延長できる時間についての目安となるべき限度時間が労働省の指針で示されていました。しかし、今回の改正により、法的根拠をもった延長上限基準となり、労使双方に対して、36協定がこの基準に適合したものになるよう義務付けました。

★延長できる時間

 1 週 15時間  2 週 27時間  4 週 43時間
 1ヶ月 45時間  2ヶ月 81時間  3ヶ月 120時間 
 1 年 360時間


A延長上限時間の適用を受けない業務があります

しかしながら、今回延長上限時間の適用を受けない業務も併せて示されました。これらの業務は、当該業務に働く労働者の労働時間の実態が非常に過長であること、業務の性格上労働時間の管理が難しいことなどを理由として適用されないことになりました。

★適用除外業務

 工作物の建設等の事業
  ※ 実際に建設等に携わっていない本店や支店勤務者も含みます。

 ・自動車の運転の業務
 ・新技術、新商品等の研究開発の業務
 ・その他、労働省労働基準局長が認めたもの
  (季節的要因及び公益上の必要により、労働時間の変動または集中作業が必要な業務)

  ここに示されたとおり、私たち建設産業には適用されないことになりました。


女性の時間外労働規制はなくなりました


今回の改正により、女性労働者の時間外労働時間、深夜業についての規制はなくなりました。
しかしながら、育児や介護を行う女性労働者には2002年3月までは、職業環境が著しく変わることを緩和するため次の措置がとられます。
また、女性労働者の深夜業の規制が撤廃されたことに伴い、労働省では、女性を深夜業に就ける際の就業環境の整備について、ガイドラインを示しています。


★育児介護を行う女性労働者が申し出た場合

 時間外労働時間
  1週6時間(ただし、決算に必要な業務は2週間12時間)
  1年150時間
 対象となる女性
  小学校就学前の子の養育を行う労働者および要介護状態にある対象家族の介護を行う
  労働者

★女性の深夜業の環境整備について

 @ 通勤および業務の遂行の際における安全の確保の措置
 A 子の養育または家族の介護等の事情に関する配慮の措置
 B 仮眠室、休養室の整備の措置
 C 健康診断等の措置

 その他、送迎バスの運行、公共交通機関の運行時間に配慮した勤務時間の設定、防犯ベル
 の貸与、女性1人作業の回避など


年次有休休暇の付与日数が拡大されました


年次有給休暇の付与日数が拡大され、勤続年数3年6ヶ月から引き上げが2日ずつになり、6年6ヶ月で20日となりました。
1999.4.1〜2000.3.31 2000.4.1〜2001.3.31 2001.4.1.以降
6ヶ月 10日 10日 10日
1年6ヶ月 11日 11日 11日
2年6ヶ月 12日 12日 12日
3年6ヶ月 14日 14日 14日
4年6ヶ月 15日 16日 16日
5年6ヶ月 16日 17日 18日
6年6ヶ月 17日 18日 20日
7年6ヶ月 18日 19日
8年6ヶ月 19日 20日
9年6ヶ月 20日

「労働契約」に関するものについて
続いて、労働契約に関する法改正についても、3つのポイントに絞ってくわしく見てみましょう。


労働条件の明示について


私たちが、会社に入社するときに、労働条件を明記した労働契約を交わすといった慣習はありません。それゆえに、入社後のトラブルが発生することもあります。

そこで、私たちの労働条件が明確に一人一人に伝わるように、賃金や労働時間などについて、書面で手渡しするなどその明示が義務付けられました。

★書面明示の義務事項
 @ 労働契約の期間に関する事項
  (無期の場合は、60歳定年制など期間を定めていないことがわかるようにする。)
 
A 就業の場所・従事する業務の内容
 
B 労働時間に関する事項
  (始業・終業の時間、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、就業時転換
   に関する事項)
 
C 賃金に関する事項
  (退職金・臨時に支払われる賃金を除く賃金について、その決定、計算・支払いの方法、締め切
   り・支払いの時期に関する事項)
 
D 退職に関する事項
★新たに周知義務事項になったもの
    (労使協定)
     @ 貯蓄金管理(法第18条)
     A 購買代金などの賃金控除制度(法第24条)
     B 1ヶ月単位の変形労働時間制(法第32条の2)
     C フレックスタイム制(法第32条の3)
     D 1年単位の変形労働時間制(法第32条の4)
     E 1週間単位の非定型的変形労働時間制(法第32条の5)
     F 一斉休暇の適用除外(法第34条)
     G 時間外・休日労働(法第36条)
     H 時間外労働分も見込んだ事業場外労働のみなし労働時間制(法第38条の2)
     I 11の専門的業務に限定される裁量労働制(法第38条の3)
     J 年次有給休暇の計画的付与制度
     K 年次有給休暇取得日の賃金を健康保険の標準報酬日額で支払う制度(法第39条)

    (新裁量労働制にかかる労使委員会の決議内容)
      新裁量労働制については2000年4月から施行

★周知の方法
  次のいずれかの方法を周知しなければならない。
     @ 常時各作業場の見やすい場所に掲示する。
     A 常時各作業場に備え付ける。
     B 書面で交付する。
     C 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、
        各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置する。

退職時の証明について


退職時の証明とは、労働者が退職するときに、労働者から請求があれば一定の事項について使用者が証明をしなければならない義務をいいます。これまでは、@使用期間、A業務の種類、B労働者の地位、C賃金の4項目で、その名称も「使用証明」でした。
しかし、今回の改正により、「退職の事由(解雇の場合は解雇の理由を含む)」が追加になりました。これは、解雇や退職をめぐるトラブルへの対応が不充分であったことによります。 ただし、この退職時の証明は、労働者の希望が前提ですので、労働者が希望しない事項の記載は禁じられています。


法令等の周知義務について


私たちが働く上でのルールを知っておくというのは大変重要なことですが、これまで法律では、法令の要旨と就業規則にしか周知義務を課していませんでした。ご承知のとおり、労働基準法では、36協定をはじめとし、労使の自主的な決定事項が多くあります。
そこで、今回この労使協定も周知義務の対象となりました。


この4月、労働基準法、男女雇用機会均等法の改正により、働く私たちのワークルールは大きく変わりました。今後も、働く私たちに関係の深い新たな制度の導入や労働法規の改正も検討されています。
今回の法改正を機に、自分の会社のワークルールはどうなっているのか、就業規則や周知される労使協定に目を光らせてみてください。今後の、私たちの新ワークルールが魅力あるものになるために。■

Compass 1999/Apr. Vol.728

日建協ホームページトップへ
ページトップへ
ひとことどうぞ