空を眺めて

プラネタリウム

アラビアの秋の星座絵
7月というと、七夕が連想されるのではないでしょうか。織女(こと座のベガ)と牽牛(わし座のアルタイル)の 星物語、そして笹に願い事を書いた短冊をつるして飾るというのが一般的なスタイルだと思います。残念ながら七夕はあいにく雨模様ということが多く、せっかくのロマンチックな時を演出できないことがしばしばです。それに都会ではネオンの明るさとスモッグで星空が霞んでしまいます。でも、そんなときこそプラネタリウムへいって、美しい星空を眺めるのはいかがでしょう。
今、プラネタリウムで見るような星空を実際に見ようと思ったら離れ小島に行くか、よほど高い山に登らなければなりません。しかし、場所さえ知っていれば、都会のまん中でそんな星を思う存分見られるのです。しかもゆったりしたイスに座ったままで。そんな場所を理科の課外授業だけに使うのはもったいないというものです。気分が落ち込んだとき……、おだやかな気持ちをとりもどしたいとき……、一人になりたい、二人きりになりたいとき……プラネタリウムです! もちろん星の世界の最新情報もインプットできます。


天文教育型と宇宙劇場タイプ

それでは、プラネタリウムって日本にどのくらいあるのでしょうか?
プラネタリウムは全国に約300館程度あると言われています。あまり知られていませんが、これはアメリカ(約1500)に次いで2番目のプラネタリウム大国です。日本では公共施設のプラネタリウムが多く、ドーム直径20mを越えるプラネタリウムが多いのも特徴です。一方、アメリカは学校の仮設型が多く設置されているようです。

これらの施設がすべて同じようなコンセプトで番組づくりや運営を行っているわけではありません。最近のプラネタリウムというものの性格は二つに大別できるように見うけられます。一つは、昔ながらの天文教育を中心とした番組づくり、館運営をしている「天文教育型プラネタリウム」です。そこでは、時代の風潮に流されることなく、独自の確固たる設立コンセプトのもと、一貫した天文教育、天文普及活動を目指した館運営がなされています。

美しい冠座
この正座はクレタ島の王女アリアドネに酒の神ディオニュソスが送った美しい宝冠をかたちどったものと言われる。右から3つ目の明るい星がゲンマで「宝石」を意味する。
もう一方、これとはまったく異なった性格のプラネタリウムが出現しており、いまや、この新参者が全国に破竹の勢いで普及しています。それが宇宙劇場といわれる空間です。星空のディレクターと呼ばれる人たちがテーマを絞り、シナリオを作り、BGMや映像ソフトを作るため、寝食を忘れてキーボードを叩きつづけるのです。今日、ここでは娯楽性の高い番組作りがおこなわれており、中にはあまりにも演出効果のうけを狙い過ぎたものが目立つ傾向もあります。

実際にプラネタリウムを運営しているのは、地方自治体・自治体直轄の財団法人など、そのほとんどは自治体です。民間が運営しているプラネタリウムはごく僅かです。(5〜6館程度)ですので、教育目的・科学教育・生涯学習を目的としたプラネタリウムがほとんどで、エンターテインメント性はあまり強くないのが全般的ですが、最近では施設側の努力や番組配給会社によって、多少なりともエンターテインメント性が出てくるようになってきました。従って、しっとりと天文学の基礎知識を学びたいならば前者へ、単に、星をながめて楽しめばよいならば後者へと、用途ごとに使い分けてプラネタリウムへ足を運んでみてはいかがでしょうか。

ドームは二種類、座席の配置も改善されている

プラネタリウムを外から見ると、ドームの形が見て取ることができると思います。このプラネタリウムのドームの形状は2種類あります。水平型ドームはお椀を水平に伏せたようなかたちに建てられています。最近の新設館では傾斜型ドームを採用する館がほとんどをしめています。この傾斜型ドームとは、劇場のように階段状に座席が設けられているもので、ドームの方も床面にそったかたちで斜めに傾いています。このような構造にすることで、従来の平面型にありがちだった、前列の観客の頭によって星が隠されてしまうことを極力押さえられるような配慮がなされているのです。また、同時に演出次第で、宇宙船のコックピットから星空をながめたような迫力と臨場感とを味わうこともできるようになっています。
プラネタリウムの平面ドーム。見やすさの点では傾斜ドームに及ばないものの、「はじめての星座探し」には、実際の星空と同じ座標で投影されているために理解しやすい。
傾斜ドーム。長年プラネタリウムに通い慣れた人でも、初めて傾斜ドームでの星座に接すると違和感を禁じえないだろう。だが慣れてしまえば平面ドームのように前列の観客の頭で星が遮られることもなく、快適に感じられるだろう。

従来の同心円座席からこの一方向座席に急激に移行しつつある。座席は通常南を向いていて、背後の星座を見るときはプラネタリウムの方が回ってくれる。

 こんどはプラネタリウムの座席配置の仕方をみてみましょう。大きく分けて二通りの方式があります。一つは、ドーム中央の投影機を中心に同心円上に座席が配列されたもの(座席は内側を向いている)で、同心円座席配置方式というものです。もう一つは、一方向座席配置方式と呼ばれるものです。これは、全ての座席がある一定方向(通常は南)に向いて穏やかな弧を描きながら配列されたもので、現在ではこちらのほうが主流となっています。


プラネタリウム「番組」

プラネタリウムのコンソール
プラネタリウムの操縦は楽器演奏やパソコンに似ている。体に叩き込めばブラインドタッチも。
プラネタリウムというと、解説員が「あの星が***星」という紹介をするイメージが強いのですが(生解説といいます)ここ20年に作られたプラネタリウムは自動演出によって行う施設が多くなっています。(これをオート番組といいます)また、前半に生解説を行って、後半にオート番組を行っている施設があります。

夏の天の川と星座。白鳥座のデネブ、織姫のベガ、ひこ星のアルタイルは夏の大三角形。ベガとアルタイルの間に天の川。
生解説の良いところは観客との一体感を感じることができ、フレキシブルに話せることから、天文の最新情報を織り交ぜながら話すことができます。ベテランの解説員はユーモアを交えながら話すのでとても親近感が沸きます。プラネタリウムの解説は実はシナリオがありません。ただし、各解説員が独自のアンチョコ・メモを用意しています。とはいえ、立派なノートがあるわけでもなく、紙切れに当日の日の出・日の入り、主だった気象現象などのデータが書いてあるだけのものです。

オート番組はテーマ性を持った内容で行われ、生解説ではできないプラネタリウム演出をすることができます。今ではオート番組がプラネタリウムの主流となっています。
「プラネタリウム番組」と書かれている場合はたいていの場合は「オート番組」のことです。生解説の場合は「今月のテーマ」などと書かれる場合がありますが一概には言えません。このオート番組の欠点は、マンネリ化することです。そこで、最初のところで書いたように、若手星空ディレクターが工夫を凝らし、自主オート番組を制作するようにもなったのです。

プラネタリウムの賢い利用法

11月の天頂に見えるアンドロメダ座銀河M31。距離は293万光年で銀河系に最も近い銀河のひとつ。
では、プラネタリウムはいつ行けば良いのでしょうか。
プラネタリウムのほとんどは「春」「夏」「秋」「冬」のタイミングでテーマやオート番組が切り替わるところが多いようです。ですので、季節に一回つまり3ヶ月に一度行くと、一年で四季の番組を見ることができます。施設によっては生解説のところは月に一回テーマを変えたりしているところもあります。施設によって行われている特別番組などは、一見の価値はあります。
ひと味違ったプラネタリウムの見方をお教えしましょう。プラネタリウムを見に行く際に、小型双眼鏡やオペラグラスを持参してみてください。そこには、いままで肉眼だけでみていたものとはまったく異なった世界が展開します。

夏の大三角形。私たちの住む2000億個の星の集団・銀河系を内側から眺めている。
肉眼で見えるもっとも暗い星が六等星といわれますが、ほとんどのプラネタリウムでは、もっと暗い星までもが映し出されます。投影限界等級は機種ごとに、またドームの大きさなどによってまちまちですが、通常は、6.25〜6.5等級前後の星まで投影されるものが多いようです。等級数が上がるにつれて、投影される星の数は加速度的に多くなります。本当の空では、いちどきに見える星の数はせいぜい三千個程度にすぎません。しかし、プラネタリウムでは、一万個を越えるものもあります。弧のような膨大な数の星がひしめくプラネタリウムの星空を双眼鏡でながめてみると、実ににぎやかなものになります。天の川や星雲・星団などは、実に芸の細かい細工がなされています。ぜひ一度、ご覧になってください。

では、とっておきの席にご案内しましょうか。みなさんプラネタリウムの会場にいってみましょう。まず、会場に入場したら解説台を探してください。その解説台の方角で、プラネタリウムの投影機に近からず遠からずの席が最も見やすい席で、プラネタリウムで一番美しく星空を堪能できるでしょう。

あなたのすぐそばにある星の世界への入口、それがプラネタリウムなのです。



参考資料
・プラネタリウムへようこそ 青木 満:著 地人書館
Go! Planetariumホームページ http://homepage1.nifty.com/planetarium/



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