1999年6月作成

総合建設業 人員削減・再就職の現状と課題

産業全体での雇用確保をめざして

目 次
はじめに
【1】総合建設業 人員削減の現状
【2】総合建設業社員 再就職などの現状
【3】建設業界・産業界全体での雇用の確保にむけて
【参考】アンケート・ヒアリング等で出た企業への要望のまとめ


じめに

 19976月、東海興業の会社更生法の申請を皮切りに、総合建設業各社の経営問題が一気に表面化し、経営再建の命の下、雇用に手をつける企業が相次ぎました。現在では、日建協加盟組合のうち、6割以上の企業で、何らかの形で人員削減が行われようとしています。

 雇用は、本来、企業の経営責任において守られるべきものです。終身雇用という、戦後の日本企業を支えた不文律のもとに入社し、働き、自らの生活と企業を支えてきた私たち組合員にとって、会社の業績が悪いからといって、他の企業に転職を考えるような意識は持ち合わせてはいません。何とか現在の企業の中で自らを活かし、企業と共に発展を図りたいと願っています。

 しかし、今、そうした日本企業の文化や、働くことへの考え方そのものに見直しが迫られているのかもしれません。個人の価値観も多様化し、一つの企業で働き続けることが、必ずしも個人の自己実現、幸福に結びつくとは言い切れなくなっています。
 そして、建設産業全体も、変革を求められています。社会資本整備に対する社会のニーズが変わり、従来のような建設投資の伸びが見込まれない状況の中、建設産業が今までと同じやり方、意識では、社会の期待に応えていけず、構造転換をしなければならない状況にあります。

 日建協は、こうした現状を直視し、「新しい仕事に挑戦しようとする仲間を支援したい」また「構造転換の狭間で、矛盾を一身に受け再就職を図らなければならない仲間を失業だけはさせたくない」「もし企業内で雇用が守れない場合には、産業、社会全体で雇用を維持していきたい」との思いで、この提言集をまとめました。元の企業を去った多くの仲間が、今もその企業への愛着を持ち発展を願っています。また、この機を人生のチャンスと捉え、新しい仕事に挑戦されようとしています。

 この提言が、そうした新しい時代を切り開こうとする仲間のために少しでも役に立つことを、また、雇用問題の解決に向けて全力で努力されている行政・関係者の方、そして、雇用の維持のために奮闘されている各企業・加盟組合の皆様に、少しでも役立つことを、切に願っております。




[1]総合建設業 人員削減の現状
〜日建協加盟組合アンケート結果より〜

人員削減に関する3つの傾向

@人員削減を再び行う企業もあり、企業数が増えている。日建協調査では6割を超える。
A企業が人員削減を急ぎ始めた。希望退職者の募集期間が短期化している。
B退職勧奨など、手法が激化してきている。

注)ここで言う「人員削減」とは、削減目標数を掲げ、期間を区切って希望退職者を募集するなど、定年前の退職を奨励・勧奨しているケースとする。新卒採用の抑制やグループ企業への出向などの手法は省いて考える。

1.人員削減を実施する企業数が1年間で倍増

98年2月から99年2月の1年間の間に、人員削減を予定している企業が、13社から27社に倍増している。この数は、日建協45加盟組合の約6割に上がる。
実施済みの企業数が、98年10月には5社であったが、99年2月には4社に減っている。近年、人員削減を実施した企業が、再度、行おうとしていることが分かる。


2.削減は平均で約1割199810月現在)

●各企業の削減予定数は、平均すると従業員数の1割程度になる。
●なかには、最大4割弱の削減を予定する企業もあり、削減予定数は増大の傾向にある。

雇用調整実施中の企業の従業員数と削減予定数の割合

企業数 社員数 削減目標数 削減率
実施中 23社計

68,865

6,623

*採用抑制等による自然減の率は年間2〜3%程度と推測される


3.40歳以上を対象とした希望退職者募集が中心、退職勧奨も多く見られる

<人員削減実施中23社の施策>

施策の中心は退職金割り増し支給による「希望退職者の募集」である。企業によっては、これを「早期退職優遇制度」と呼称しているところもある。
40歳以上の中高年層に対象者を絞った企業が多い。
それに合わせて、再就職斡旋を行う企業が6割(13/23社)近くある。方法は、自社で斡旋する場合、民間の斡旋会社を利用する場合、併用する場合がある。
転職休暇制度を導入する企業が、3割(7社)ある。
ここ3年内に、退職勧奨等の事例が有った企業が少なくとも9社あった。
その他、さまざまな形で、従業員への退職の圧力が強まってきている。

4.計画の前倒が続出

一般的に、複数年かけて希望退職者を募る場合は、本人の意思を尊重する姿勢が強いが、短期間での募集の場合は、退職勧奨などの圧力を伴うことが多い。
当初2年〜3年かけて人員削減を行うという計画を建てていた企業が、急に数ヶ月間に期間を短縮するなど、前倒しで行う事例が増えている。
2000年度以降まで人員削減の計画を建てている企業が、99年2月現在でも7社ある。総合建設業の人員削減は、少なくとも後2年は続くと予想される。

5.大企業ほど多い人員削減

企業規模別に見ると、従業員が1000人以上の、規模の大きい企業のほうが、人員削減に踏み切る傾向が強いといえる。



[ 2 ] 総合建設業社員 再就職などの現状
   〜日建協退職者向けアンケート結果より〜

再就職者の傾向

1. 自営・独立を志す人が多い。
2. 施工系・設計系など技術職は、中小のゼネコン、専門業者など、建設関連の産業内での転職が多い。事務系・営業系では、産業内外に多様に転職している。
3. 再就職した人のほとんどが退職前に再就職先を決めている。
4. 職業安定所や人材銀行といった公的機関はほとんど役に立たず、友人知人の紹介が最も有効
5. 行政に対しては、「自己啓発への金銭的補助」や「独立開業の支援」、「各種職業紹介機関の連携」などの充実や推進を望んでいる。

*日建協では、各加盟組合の協力を得て、それぞれの企業を中途退職された方に「再就職状況に関する調査」を実施した。以下は、その結果からうかがえる総合建設業社員の再就職の現状である。なお、実施要領は下記の通り。


  • 実施時期 : 1999年2月
  • 対 象 者 : 1997年4月以降退職された31歳から55歳の方(職種不問)
  • アンケート依頼数 約220名
  • 調査方法 :自宅への郵送による依頼、および郵送による回答
  • 回答者  : 61名(回答率28%)、うち有効(年齢・退職時期)回答53名

1.7割の人が再就職済み。約2割が自営・独立をめざす

回答者の再就職状況と平均年齢
開業も含め、既に就職済みの人が約7割に達する。次の職が決まった人の方が回答し易いと推測されるため、この結果から、直ちに総合建設業を退職した人の状況を判断することは難しいが、全産業における調査(再就職61% 未就職37%:以下JIL調査(*))と近い結果になっている。
未就職者の方が若干高齢である。

    人数(割合)  平均年齢 
 未就職者   13人(24%)  46.2
 既就職者  38人(72%)  44.7
 その他   2人( 4%)    −

既に再就職が決まった人のうち、企業等に就職した人は31名で、7名が自ら開業している。また現在再就職活動中の13名のうち、4名は自営開業を視野に入れて活動している。全体で約2割の人が開業を志しており、独立開業への志向は高いといえる。
「その他」2名は学校へ通うなどの生活を送っている。


*JIL調査:1998年10月に日本労働研究機構(JIL)が、新宿ハローワークの求職者に行った現状調査。
全回答者1093名(内30歳〜59歳 588名)

母数が少ないため結論づけにくいが、施工系・設計系などの技術系と、事務系・営業系とのあいだで、再就職のしやすさに特別の差は見られない。ただし、別途ヒアリング調査によると、技術系、特に土木系技術者の求人が比較的多いと聞く。
技術系の方が自営開業をより強く志向する傾向が見られる。



2.技術系は産業内へ、事務系は多彩

@技術系(施工・設計)の傾向
地方の中小ゼネコンや、専門業者、設計・コンサルタントなど関連業種への転職がほとんどである。
また、リニューアル業者やビルメンテ業者など、建設関連の新規市場への転職も見られる。
他の情報では、環境関係の企業への転職もある。
自営開業においても、それまで身につけた技術や資格を活かした専門業種(施工図作成・設計事務所・土木系コンサル・土地家屋調査士)への参入が目立つ。

A事務系(事務・営業)の傾向
事務系・営業系の転職先は、多彩である。地方の中小ゼネコンや専門業者等の営業の職もあるが、生命保険の販売や、老人ホームの所長、教育産業での部門管理などの例もある。
自営開業においては、海外経験等を活かし、不動産処理のコンサルタントや、リニューアル業の開業例がある。

3.再就職者の年収は退職時の8割、未就職者は高望みできず

再就職した人の年収は、前企業で得ていた退職時の水準の約8割となっている。この低下率は、全産業を対象にした調査(JIL調査)とほぼ同様の結果である。
再就職した人に比べ、現在就職活動中の人の希望年収は、退職時の7割弱となっている。これは、再就職先が決まらず就職活動が長期化するほど賃金面の条件が厳しくなり、高望みできない状況になっていることを示している。




4.転職を新たな挑戦と捉え、仕事のやりがいや内容を重視
全般に、再就職先を決める際特に重視することは、仕事のやりがいや内容である。
逆に、役職や労働時間といった点は重視されていない。賃金水準についてもかなり譲歩していることが分かる。
未就職者の回答では、既就職者ほどの顕著な差が見られない。
勤務地については、様々な事情から譲れない点があるのであろう。
全産業調査(JIL調査)でも、再就職の際に最もこだわった条件が「仕事の内容・職種」であり、下げた希望条件のトップが「賃金」となっており、近い結果が出ている。


これから再就職しようとしている人の多くは、現状をチャンスと捉え、新しいことに挑戦しようとしている。
そのため、ある程度時間をかけても、新しいことに挑戦するチャンスである 。

5.再就職したほとんどの人が退職前に就職先を見つけている

既就職者では、約8割の人が退職前に再就職先を決めている。
退職直後まで含めれば、9割の人が決定しており、少なくとも、退職前から再就職活動を行っていたことがうかがえる。
未就職者では、退職直後から活動を始める場合が多く、退職前に活動を始めた人は半数に満たないことが分かる。
一般的に、退職後6ヶ月を過ぎると、再就職はより難しくなると言われている。退職前から準備を行い、できれば退職前に 再就職先を決めておくことが大切である。



6.友人や知人の紹介が最も有効

再就職先を見つけるに当たり、最も活用され、また有効なのが、友人知人の紹介など個人的なつながりである。ただし、今回の調査対象者には少ないが、前企業が直接斡旋する場合もあり、この方法が当然決定率は高い。
職安、人材銀行の利用数は意外と少ない。また、そこの情報が再就職に結びついた事例が少ない。総合建設業に働くホワイトカラー層には、あまり有効ではないことが伺える。
転職情報誌、ビジネス紙の求人欄などの情報が、豊富で新しく、決定に結びつきやすいとも言える。

7.パソコン技能と専門の知識・資格が重要

再就職に関して、特別に自己啓発や資格取得などに取り組んだ人は意外に少ない。
パソコンに取組み、またそれが有効だったと答えた人が最も多い。特別な技術ではないが再就職の際重要な技能といえる。
資格取得については、技術士、一級建築士、一級土木施工管理技師など、職務に直結した専門的資格を有効とする声が多い。
全産業調査(JIL調査)においても、事前に行っておけば良かった訓練として中高年層 では「コンピュータ関連の知識・技術」が最も多く、次いで「公的資格」が挙がっており、ほぼ同様の結果となっている。

8.行政には「自己啓発援助」「独立開業支援」「職業紹介機関の連携」などを求める

行政の雇用安定の施策に関して、最も要望が強いのが、自己啓発への金銭的な補助である。
また、独立開業への支援、各種紹介機関の連携、職業教育訓練メニューの充実も望まれている。
逆に、失業者を雇用した企業への補助金や、失業手当の給付期間の延長、また、派遣法改正などによる雇用の流動化は、雇用の確保に結びつかないとする意見が多い。


[3]建設業界・産業界全体での雇用の確保に向けて

〜行政および業界への提言〜
T.離職者の再就職支援に向けた取り組み

@自己啓発への支援強化
ホワイトカラー向け講座の充実、産業別・職種別のきめ細かなカリキュラム作成

A求人情報の掘り起こし、全国ネットでの情報の一元化
特に建設産業ホワイトカラー層の求人企業・求職者の紹介システムの整備

B独立開業の支援策の強化
ノウハウ提供と資金援助

U.新規雇用の創出に向けた取り組み

@民間の技術・ノウハウを公的機関に活かす仕組の検討
新規業務の創出につながる規制の見直し・研究開発の推進


T.離職者の再就職支援に向けた取り組み

@自己啓発への支援強化
ホワイトカラー向けの講座の充実、産業別・職種別のきめ細かなカリキュラム作成

<教育訓練給付制度に関して>
「教育訓練給付制度(自己啓発に20万円を上限とした助成金が出る)」の新設は極めて有効である。しかしその対象講座は、従来から、通信教育で行っているような資格取得・語学・ビジネスの基礎知識・教養などのプログラムが多く、実践的ではない。
ホワイトカラー向けのマネジメント系の講座、実践的な講座(ビジネススクール、セミナー、夜間の大学や専門学校の社会人向け講座など)の指定が望まれる。

<ホワイトカラー向け再就職支援の講座の拡大>
現在、生涯職業能力開発促進センター(アビリテイーガーデン(*1))で行っているようなホワイトカラー層の再就職向の講座を、全国で多数実施するべき。現在、求職者からの応募が多いが、応じきれていない。そして、そこで開発されている、実践的な再教育の手法・カリキュラムを公開し、民間へノウハウを展開していくべきである。
(*1)雇用促進事業団が、ホワイトカラー向けの職業能力開発を支援する目的で設立した団体。

<産業別、その中でも職種別・目的別に特化した再就職支援プログラムの開発>
既成の講座には、ホワイトカラー一般で括られた基礎的な講座が多い。建設業などの産業別、さらにその中の、施工、設計、事務などの業種別に特徴を捉え、再就職に目的を絞ったきめこまかなプログラムの整備が必要である。
再就職に必要な知識などについては、アンケートでは、かなり具体的、また、実践的な知識、感覚の熟成を求める声が多い。体験者からのノウハウの伝授、体験学習などの講座を開発する必要がある。
以上のことを踏まえ、行政、経営者団体、組合が協力して、より実践的な再教育カリキュラムの開発を試みるべきである。

(アンケート、ヒアリングでの意見より)
・教育訓練給付制度などの機会がもっとあると良い。
・自己啓発への金銭補助は、この時期非常に助けとなる。
・仕事が継続してあるかどうか不安になる。新しく知識や技術を習得したくとも都心にはたくさんの機関・
 機会があるが地方では少ない。地方でこそ各機関・大学・各種学校を開放してその機会を増やして欲しい。

(アンケート:不足していると思う知識・経験など)
・与えられた条件の元での設計業務は十分にこなせるキャリアはあると思うが、仕事を得る営業力が不足
・営業経験(特に顧客への自分の売り込み)
・経理的な感覚/税務関係の知識/税金対策・経理・パソコン知識/ビルメンテナンスの法的な知識。
・リフォーム・小口工事に対する原価の把握。/マネジメント能力/会社経営に関する知識。
・パソコンを使いこなせたら良いと思う。学習はしたがもっと完全にしておけば良かった。など(5名)

 (関係者意見)
・資格は、自分の能力を証明する手段として、再就職には必要不可欠。



A求人情報の掘り起こし、全国ネットでの情報の一元化
  特に建設産業ホワイトカラー層の求人企業・求職者の紹介システムの整備

 1)中小企業の人材ニーズ・発掘・研究

アンケートからは、ハローワークなどには有効な求人情報が無いとの意見が多いが、中小企業からは、「経営の片腕に成れるような良い人」に対する人材ニーズを聞くことは多い。また、現実の再就職先も、中小のゼネコン・専門業者が一番多い。

問題は、これらの人材ニーズ゙が曖昧なままであり、なかなか、具体的な求人に結びつかないことである。

建設産業に関わる政労使が協力して、中小企業が潜在的に持つ求人ニーズを発掘する必要がある。また、中小企業の人材ニーズを明確にし、そのニーズに向けた再教育プログラムの開発を行う必要がある。


 2)情報の全国一元化

地方の企業が地元で技術士の資格を持つ人を求めたがおらず、東京で見つけたとの例もある。地元へUターンしての求職もあり、全国の求人情報を、全国で検索できるようにネットワーク化することが望まれる。労働省が進めている、ハローワークの求人情報をインターネットで検索できるようなシステムの開発、全国展開を早めて欲しい。


 3)建設産業ホワイトカラー層の求人企業・求職者の紹介システムの整備

特に、建設産業内の中小企業が潜在的にもつ求人情報を集め、また、求職者を紹介するような仕組みを作ることが必要。規制緩和の流れに乗り、建設産業向けの職業紹介業を志向する民間企業があれば、積極的な支援が必要である。

(ワーアンケートの意見:ハロークなどを利用しての感想)
・求人案内(ハローワーク)等では年齢・賃金条件等が合わない/該当する仕事がない/紹介がなかった
・求人内容があいまいなものが多い
・年齢的に求人の数が極端に少ない /競争が激しい
・大手ゼネコン在職者は地場民間では余り採用したがらないとわれた(ハローワーク談)

(関係者へのヒアリング)
・地方の中小ゼネコンには、大手企業の社員の中途採用意欲は、潜在的にはある。
「経営の片腕に成れるような良い人材、息子に経営を渡すまで、つないでくれる人材」 などの人材ニー
 ズを抱えた企業は多い。
・この潜在している求人情報を集め、適した人を紹介できる仕組が必要。各保証会社などは、中小企業と
 の関係も深く、経営支援という観点からも、各保証会社にぞういう人材バンク的な機能を持たせてはど
 うか。
・中小企業には確かに人材ニーズがあるが、それは「良い人・優秀な人」というように曖昧な場合が多い。
 これを明確にしないまま人を雇っても、その人を活かせないケースが多い。
・秋田県の業者が、「技術士」の資格を持った人材を探したが、県内ではみつからなかった。
 東京の人材銀行で探したところ、すぐに見つかった。


B独立開業の支援策の強化
 1)会社経営のノウハウ提供

アンケートの声には、会社経営のノウハウ、経理的なセンスを学びたいとの声や、売るべき技術・能力はあっても、その売り方営業の方法が分からないなどの声もある。

サラリーマンが独立開業する際のノウハウを、効率的に学習できる場、実際の体験談を聞ける場などの設置が必要。


 2)資金援助:

独立開業した人からは、開業はしたものの収入が無い、無収入に応じて、失業者と同じ扱いで、失業保険を貰えないかとの主旨の声が多い。

今年の1月から、「雇用保険の受給資格者が創業し、労働者を雇い入れた際の助成」が拡充されてはいるが、あくまで人を雇った場合にのみ利用できる助成金である。
失業保険の給付基準の見直しなども含め、独立開業する人への、直接的な資金援助の仕組みの拡充が望まれる。

(アンケートにみる、独立開業者の声)

・収入が無いため、預金が目に見えて減っていく。
・仕事の入りが不規則で一定しそうにないと予想されること、忙しい時には人を欲しいが将来の経費の面から二の足を
 踏む
・定期的に収入がないこと。
・独立自営した場合、失業保険の給付がうけられない、仕事が無い中無収入に応じ給付をしてほしい。
・当面の運転資金を確保してないと大変です。自営を目指す方は、国保・年金などにサラリーマンでは考えられない
 負担を感じます。



会社は、日常の取引関係等から、自社の社員に適した求人情報を一番集めやすい状況にある。積極的に再就職先を開拓し、あっせんに努めるべきである。外部の再就職支援会社を利用する際も、単なる面接のノウハウなど再教育だけでなく、かならず、再就職先を自ら斡旋する会社を利用すべきである。


U.新規雇用の創出に向けた取り組み

@民間の技術・ノウハウを公的機関に活かす仕組の検討
新規業務の創出につながる規制の見直し・研究開発の推進

現在、自治体の公共事業の案件に、自治体の発注業務が追いついていない。また、小さな地方自治体では、慢性的に技術者が不足しているとも聞く。
今回の建築基準法の改正により、建築確認・検査業務が民間にも開放される。しかし、そのなかには各種制限があり、総合建設会社で設計業務・施工管理業務に携わっていた人でも、検査員にはなりにくくなっている。
建設会社で実務を担当していた者だからこそ検査に活かせる知識・経験も多いと思われる。
検査員の認定基準などの、より一層の規制緩和が必要である。
その他、より質の高い発注業務を行うためにも、積算業務の支援など民間に開放できるものがあれば、積極的に開放するべき。
公共事業の発注における、総合評価制度の拡充、設計施工の一括発注や、PFI事業などのように、民間の資金・事業運営のノウハウを活用する仕組などの整備を急ぐべき。
リニューアル業、ビルメンテ業など建設業に関連して拡大が見込まれる市場、また、環境、バリアフリー、通信など、今後建設産業が進出できそうな新規市場に関するさらなる調査研究が必要。

アンケート・関係者へのヒアリングより)

・行政は、あらゆる入札の門戸を開放し、参加の機会を増やすべき(設計事務所の開設者)
・民間工事の設計確認業務、工事の確認検査業務の民間開放を進めるべき
・特殊法人や第3セクターなどへの民間出身者の中途採用を進めて欲しい
・地方自治体の工事企画・積算業務などの民間企業の活用
・世の中でいわれている人材関係・健康産業・通信事業が2010年まで拡張するとの事なので、
 それに関する知識の習得・取り組みが必要だと思われる。


V その他要望
@ 退職金への税率の見直し(勤続年数による差の撤廃)

中途退職者の退職金への税金が高い。このお金は、その後の生活、および再就職活動・開業に向けての準備金などに利用されるものであり、ひいては雇用の安定に不可欠なお金である。
少なくとも、
40歳を超える中高年層は、再就職の条件も厳しく、生活費も一番必要な年次であり、定年退職した場合の退職金と同等の税金の控除額・税率の適用が望ましい。

現行制度では、勤続年数に応じて、税金の控除額が違う。40歳と60歳を比べるた場合、退職金の額が720万円を超えると納税額に差が出始め、金額が上がるに連れて徐々に差が開く。
2000万円では約100万円、3000万円では、約150万円の差がつく。
こういった終身雇用制に応じた勤続年数による税額の違いは、雇用の円滑な異動を妨げる一面もある。少なくとも、日本全体で構造変革のための雇用の異動が避けられない時期には、その状況に応じて、退職金の税額の見直しも必要であろう。

(アンケート意見より)
・退職所得に対する税金が高すぎる。


[4] 参 考

[アンケート、ヒアリング等で出た企業への要望のまとめ

〜非自発的離職者の保護のために企業がすべきこと〜

  1. 本人の自由意志は、必ず担保されなければならない。
  2. 企業側から、再就職先の斡旋を行う必要がある。
  3. 希望退職者募集にあたっては、在職中に再就職活動を行えるような十分な募集期間と、また、転進準備休暇などの制度の整備・運用が必要である。
  4. 退職後の生活設計、再就職時の留意点などについて、事前に学習できる機会を設けるべきである。

@本人の自由意志の担保
アンケートの意見からも、嫌がらせなど、退職勧奨の事例があることが分かる。
本人の自由意志が担保されることは希望退職者募集の大前提であり、本人の意思に背いて、退職を強要することがあってはならない。
(アンケートの自由意見より)

・直属の上司のいやがらせ(特に困ったこと)
・今後もリストラ、早期退職がふえてくると思うが、リストラ時のいやがらせをやめさせること。 


A再就職先の斡旋の重要性
関係者ヒアリングの結果から、当然ながら、企業が再就職先を直接斡旋する場合が、最も確実に再就職できることが分かる。2章−6で見た通り、再就職先を見つける際、職安・人材銀行等の公的機関があまり有効ではなく、友人・知人など個人の人脈に頼っているのが現実である。
さらに、必要に応じ、再就職斡旋とその後のフオローを専門とする部署を設立すべきである。

(関係者へのヒアリングより)

・某社では、再就職先の斡旋を自社でも行った。希望退職者のうち再就職した者が200名余おり、
 その半数以上が、自社の直接の斡旋によるものである。


B希望退職者の募集期間などの十分な設定
2章−5で見たとおり、再就職した人のほとんどが、退職前に再就職先を予め決定していた。
また逆に、未就職の人には、退職直後から活動を始める人が多い。
企業在職中から本人が再就職活動を行い、再就職先の見込みを付けておくことが、転職をスムーズに行うには不可欠である。

以上の事実を踏まえ、企業側は、希望退職者の募集にあたっては期間をできるだけ長くとり、社員に十分な準備期間を与えること、また、転職準備休暇(転職準備のために、会社に申し出た場合、数ヶ月間の特別休暇を認める)などの制度の整備・運用が必要である。


(アンケート自由意見より)

・再就職先を決めてから退職すべき
・私と同じく在職中に再就職活動を行うべきだと思います。また、将来の生活設計をきちんとたてて再就職を行うこと。
・私の場合は、会社の期限の前日に退職を決めてしまったが、やはり退職する前に再就職先をきめてから、退職すべ
 きである。(私の場合は急な退職ということで再就職先が決まるまで最長で3ヶ月)某部署に(肩書きとして)在籍した。
・リストラは理解できるが、企業が転職を勧める時には会社の業績内容を充分に説明した上で、充分に考える時間を
 与えた方がよい。
・仕事をしながらの就職活動(特に悩んだこととして)


C退職後の生活設計、再就職時の留意点などの学習機会の提供
退職金にかかる税金の額を知らないなど、退職後の生活設計に必要な基礎知識が無い例もあり、各種保険(年金・健康保険)なども含めた退職後の生活、再就職に関する情報へのニーズが高い。
また、再就職できた人からは、大企業から中小企業へ移ってのギャップや、新しい職場での人間関係に悩む人も多い。
外部のセミナーの受講なども含めて、退職後の生活、再就職時の留意点などに関する情報提供を行い、社員ができる限り余計な不安を抱かずに済むようにすべきである。

(アンケート自由意見より)

・退職時に有利な退職方法?(賃金、退職金等)をマニュアル化して退職者に周知させてほしい。
・退職後の就職情報の不足。各種保険(年金・健保他)の情報。
・退職時の再就職に際しての指導・相談・斡旋などを希望したい。


Dその他:債務の清算、退職金の扱いなど

●持株会の清算金など、退職者への債務は、退職時に全額支払われるべきである。


(アンケート自由意見より)

・持株会を退会し希望退職したのに株を現金化してくれない。今になって減資し1株50円になると説明があった。
・退職する1年程前に退会した従業員持ち株会からいまだに返金されず、大変不安である。生活設計に影響大きい。
 (関係者意見より)
・企業は、非自発的な退職者に対しては、割り増し退職金にかかる税金などを考慮し、税金相当額を上乗せして、
 退職者に支払うべきである。
・転職しても損をしないような退職金制度(前企業での勤続年数が考慮された退職金の制度:退職金のポータブル化)
 を企業は導入していくべき


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