いつ過労死してもおかしくない、ゼネコンの外勤者
労働時間の原則は1日8時間、1週間40時間まで
時間外・休日労働をさせるには、理由と範囲を明示した36協定と監督署への届出が必要
労働時間の自己申告制のもとでは、実際よりも少なく申告しがち
「主任」や「課長」だからといって、管理監督者になるわけではない
健康に働き続けるためにも、自分の労働時間を正確に把握することが大切です
「会社のために仕方がない」は本当に会社のためになるか?
いつ過労死してもおかしくない、ゼネコンの外勤者
 11月15日に、厚生労働省の専門検討会から過労死などを労災認定する際の判断基準の緩和が発表され、その内容(表1)に、日建協では大変大きな衝撃を受けました。

過労死などを労災認定する際の新たな判断基準
時間外労働
 発症前1か月  月100時間超は認められる可能性大
 発症前2〜6か月  月平均80時間超は認められる可能性大
 発症前1〜6か月  月平均45〜80時間はグレーゾーン。他の項目を考慮。 
 月平均45時間未満は認められない可能性大
その他の主なチェックポイント
 不規則な勤務  業務日程・内容の変更が頻繁かどうか
 拘束時間の長い勤務  休憩・仮眠の時間、仮眠施設の広さ、空調、騒音の具合
 出張の多い業務  交通手段や出張の頻度、宿泊施設の状況
 交代制勤務・深夜勤務   勤務が終わってから次の勤務までの時間


※基準は45時間が境界だが、調査は10時間単位としているので、50時間を境界としている。
 発症前1か月間の時間外労働が100時間以上であれば労災認定される可能性が大ということですが、2000年度の日建協調査では、建築外勤者で33%、土木外勤者で22%の人が既にこの水準に達しています。(図1)

 同じく、発症前2〜6か月間の時間外労働が月平均80時間以上でも認定の可能性は大ですが、建築外勤者ではなんと、平均値(80.8時間)がこの危険水域に入ってしまっています。ちなみに土木外勤者の平均値は67.7時間ですが、これもグレーゾーンの上の方です。

 これで、私たちゼネコン職員の労働時間が尋常ならざる水準にあるということが、あらためてハッキリしたと言えると思います。私たち労働組合は、新たなこの認定基準を追い風にして、経営者や行政機関に対し、時短にむけた取り組みをこれまで以上に強化するよう訴えていく必要があると感じた次第です。

 ところで、これまでもこのCompass紙上では、私たちの労働時間が他産業に比べて異常に長いことを繰り返し報告してきました。日建協も各加盟組合も私たちの労働時間、特に時間外労働時間を削減しようと、会社(経営者)や行政、発注機関に対して実態を訴え、いろいろな改善策を提案したりしてきました。しかし成果は上がらず、残念ながら労働時間は増えるばかりです。どうしてでしょうか?
 成果が上がらない要因として、確かに日建協や加盟組合の取り組み方にも問題が無いとは言えません。しかしこれとは別に、みなさん一人ひとりの雇用契約(ワーク・ルール)に対する認識が薄らいできていることも大きな要因としてあるのではないかと思うのです。
 もちろん、ひとりひとりでは取り組みが難しい問題があるからこそ、みんなで団結して取り組むために労働組合があるのです。しかし、組合を構成するひとりひとりの認識が希薄なままであれば、取り組みの成果はおのずと限定的なものとならざるを得ません。組合本部だけが騒いでいるのでは、とてもじゃありませんが大きな力にはならないのです。

 そこでこの特集では、一人ひとりが自分と会社との間に結ばれている雇用契約を再認識する一つの契機として、労働条件の最低基準を定めている『労働基準法』の中から、特に労働時間に深く関係する事がらについて、それらの認識を深めるために基礎の基礎を確認することにしてみたいと思います。
 労働基準法の関係部分を抜粋しておきますので、本文を読む際の参考にしてください。
労働時間の原則は1日8時間、1週間40時間まで
 使用者が、労働者に労働させることができる時間は、休憩時間を除いて1日8時間以内、1週間40時間以内と決められています(第32条)。また休日については、毎週最低1日、あるいは4週間を通じて4日以上を与えなければならないと規定されています(第35条)。

 これは、みなさんもよくご存知でしょう。この基準に基づいて、会社の就業時間(所定内労働時間)や休日が決められています。1日の勤務時間は7時間30分であったり、7時間45分であったり、つまりは8時間以内となっているはずです。また、週40時間ということから、ほとんどの企業が土曜日と日曜日を休日として、週休2日の勤務形態になっていると思います。
ここまでは、言うなれば原則の話です。

 これ以外にも、みなさんは毎日のように残業をしているでしょうし、休日も職場に出て仕事をせざるを得ない状況にあると思います。しかし労働基準法では、使用者が労働者に時間外労働をさせることができるのは、あくまで『例外的扱い』なのです。
時間外・休日労働をさせるには
理由と範囲を明示した36協定と監督署への届出が必要
 使用者が、労働者に時間外および休日労働をさせるためには、労働組合あるいは労働者の代表と書面による協定を結び、決められた様式(様式第9号:図2)とともに、これを所管の労働基準監督署長に届け出なければなりません(第36条)。これは法文第36条に関わる協定なので、俗に「36(サブロク)協定」と呼ばれています。

 図2

様式第9号(第17条関係)
時間外労働
休 日 労 働
に関する協定届
事業の種類 事業の名称 事業の所在地(電話番号)
機械器具製造業 ○○工業株式会社 ○○市○○町1−1(○○○−○○○○)
時間外労働をさせる
必要のある具体的事由
業務の
種類
労働者数
(満18歳
以上の者)
所定
労働
時間
延長することができる時間 期間
1日 1日を超える
一定の時間
(起算日)
1ヵ月(毎
月1日)
1年(4月
1日)
@下記ABのいずれ
  にも 該当しない
  労働者
取引先の都合等で
臨時の業務を行う場合
営業 2人 1日
8時間
3時間 40時間
300時間 平成11年4月
1日から1年間
月末の棚卸のため 経理 同上 同上 3時間 15時間 180時間 同上
 
A1年単位の変形労
  働時間 制により
  労働する労働者
臨時の受注・納期の
変更等の場合
機械組立 20人 同上 2時間 20時間 180時間 同上
同 上 検査 3人 同上 2時間 20時間 180時間 同上
B育児又は家族介護
  を行う女性労働者の
  うち延長することが
  できる時間を短くす
  ることを申し出た者
月末の棚卸のため 経理 1人 同上 2時間 1週5時間 100時間 同上
休日労働をさせる
必要のある具体的事由
業務の
種類
労働者数
(満18歳
以上の者)
所定
休日
労働させることができる休日
並びに始業及び終業の時刻
期間
取引先の都合等で臨時の業務を行う場合 営業 2人 毎週土・日曜日及び国民の祝日 1ヶ月のうち2回、8:00〜17:00 平成11年4月
1日から1年間
臨時の受注・納期の変更等の場合 機械組立 2人 別紙年間カレンダーで定める日 同上 同上
 
@     A B C D E F
  協定の成立年月日    平成11年  3月  23
  協定の当事者である労働組合の名称又は労働者の過半数を代表する者の職名 
○○工業株式会社労働組合 執行委員長
                                               氏名 
○○○○
  協定の当事者(労働者の過半数を代表する者の場合)の選出方法(                                 )
       
平成11年  3月  25
                                          使用者 職名 
○○工業株式会社 代表取締役
                                                氏名 
△△ △△                   印
        
○○ 労働基準監督署長殿
  記載心得
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 上の図2を見ればわかるように、届出に際して記入しなければならない事項は次のようになっています。

@時間外労働、あるいは休日労働をさせる必要のある具体的事由
A対象業務の種類
B対象労働者の数
C所定労働時間、所定休日
D1日及び1日を超える一定の期間について延長することのできる時間
E労働させることができる休日並びに始業及び就業の時刻
F協定の有効期間

 あなたが時間外労働、休日労働をしているという事実があるとすれば、職場(事業所単位)では必ず36協定が結ばれ、それが労働基準監督署に届けられているということです。もしそうでなければ法違反(第32条、第35条)となります。また、36協定で定めた範囲外の時間外や休日労働も、当然ながら違法です。こうした法違反に対する処罰の対象は、使用者のみです。労働者が罰せられることはありません。また法違反であっても、使用者は、実際に行われた時間外労働に対しては賃金を支払わねばなりません。

 36協定のことを知らない方は、ぜひともこの機会に職場の36協定を確認し、自分がどういう条件のもとで時間外労働や休日労働をすることになっているのか、そして自分の時間外・休日労働がこの協定の範囲内であるかを確認するようにしてください。支部長さんあたりに聞けば、たいてい確認できるはずです。

 協定内容とみなさんの就労実態とに乖離がある場合は、当然ながら、組合として問題にする必要があります。支部か本部に連絡すべきでしょう。

 この36協定は、使い方によっては時間外労働時間を削減する強力なツールになることがお分かりいただけると思います
労働時間の自己申告制のもとでは、実際よりも少なく申告しがち
  労働基準法では、「使用者が始業、就業時刻を把握し、労働時間管理すること」を当然の前提としています。というのも、同法によって使用者は、労働者に対して時間外・休日・深夜労働の割増賃金を含めた賃金を全額支払う義務を課せられているからです。つまり、労働者ひとりひとりの労働時間を的確に把握していないと、労働にみあった適正な賃金を支払えなくなるからです。

 ところで、みなさんの会社では、労働時間管理はどのようになされていますか。タイムカードなどによる客観的な記録方法を採用しているところは、まず無いと思います。ほとんどの会社が、各人の自己申告により管理されているのではないでしょうか。

 ここにひとつの問題があります。申告内容が実態を正しく記録したものかどうか、という問題です。
また、時間外労働を削減する目的で、いわゆる「目標管理時間」というものが設定されてはいませんか。1ヶ月あたり25時間とか30時間という類のものです。これも、場合によっては問題となります。

 「目標管理時間」を設けること自体がいけない訳ではありませんが、それが右記の自己申告制のもとで「労働者の労働時間の適正な申告を阻害する目的で、上限を設定するなどの措置」となっている場合は、明らかに法の趣旨に反します。

 図3は日建協が組合員に対して実施した2000年度の調査です。実際の時間外労働時間と会社に申告した時間との間に大きな開きがあります。申告した時間は実際の3分の一から2分の一です。申告した時間と「目標管理時間」との間に密接な関係があることも分かっています。

 目標を設定し、それに向けて努力させることは結構なことですが、労働時間の実態の管理が、それによってねじ曲げられるようなことがあってはなりません。したがって、「目標管理時間」を超える時間外を一律に切り捨て、「目標管理時間」分の時間外手当しか支払わないというようなことは、すなわち「賃金不払い」であり、明らかに第24条および第37条違反となります。

 ここで、先に触れた「36協定」のことを思い出してください。もしもあなたの職場に「目標管理時間」が設定されているなら、「36協定」の時間と「目標管理時間」とを比較してみてください。その結果、両者の間にあまりにも開きがある場合は、「目標管理時間」の意味合いを疑った方がよいでしょう。(36協定の時間が目標管理時間よりも少ない場合は、そもそも「目標管理時間」の意味は存在しないことになります。なぜなら、第36条違反の範囲ですから。)

 使用者が、労働者の適正な労働時間を把握するためにしなければならないことについては、2001年4月6日に厚生労働省からあらためて指導の通達が出されています。そこには「労働者が適正な自己申告をしたことにより、不利益な取り扱いが行われることのないように」などの内容が書かれており、本当はここで全文を紹介したいのですが、紙面が余りにも少ないので日建協のホームページ「やさしい法律」で、ぜひ内容を確認してください。
「主任」や「課長」だからといって、管理監督者になるわけではない
 ところで、第41条 第2号では、「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」は「労働時間、休憩及び休日に関する規定」は適用しないとしています。
 ここで問題となるのは「監督若しくは管理の地位にある者(管理監督者)」の定義です。行政解釈(通達等)では、「一般的に局長、部長、工事長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場に在る者の意であり、名称にとらわれず実態に即して判断すべきものである」となっています。

 また、これまでの裁判における判例でも「労働者が労働条件の決定その他の労務管理について経営者と一体的立場にあり、自己の勤務について自由裁量の権限を有し、出退勤について厳格な制限を受けない地位にあるか否か等を具体的な勤務実態に即して決すべきである」としています。判例では「駅の助役」も「銀行の支店長代理」も管理監督者とは認められていません。

 これらのことから勘案すれば、単に「主任」「課長」「管理職」などといった役職や等級を根拠として「管理監督者」であるとは言えず、あくまで職務内容で判断されなければならないと理解できます。
 現在、多くの企業で役職や等級を根拠にして、当該労働者を時間外手当(残業代)支給の対象から外していますが、右記のとおり、この取り扱いには問題があります。
仮に「管理職手当」のような特別手当が別途支払われていたとしても、それで良しとなるわけではありません。資格・役職手当分と時間外相当分が明確に区別できるようになっていなければなりません。実際に行った時間外・休日労働の手当換算分よりも、こうした特別手当の時間外相当分が少ない場合は、賃金不払いの問題が生じます。

 「管理職手当」のような特別手当が、実際の時間外手当を補ってなお余りある場合を除き、会社にとっては「管理監督者」が増えれば増えるほど都合が良いということになります。なぜなら、いくら働かせても人件費は同じだからです。また、こうした労働者に対しては、どうしても時間管理がおろそかになりがちです。
 こうした「管理監督者」の不適切な設定も、サービス残業を生む大きな要因となっています。
健康に働き続けるためにも、自分の労働時間を正確に把握することが大切です
 ところで、冒頭の労災認定基準の話しに戻りますが、万が一、あなたが過労で倒れたとしたら、どのようにして自分の実際の労働時間を証明しますか。毎月の勤務報告書には、きちんと実際の労働時間を報告していますか。会社の協力が前提となるものの、それができていれば証明は比較的簡単ですし、労災の認定にしてもいたずらに時間を要することにはならないでしょう。

 しかし、勤務報告書に実際の労働時間を報告していなかったとしたら、どうでしょうか。この場合、実際の労働時間を証明するにはかなり苦労すると思います。ですから、万が一のときの手続きを複雑なものとしなくても良いように、勤務報告書にはきちんと実際の労働時間を報告するようにしましょう。
 このことは「管理監督者」であっても、裁量労働制等で「みなし労働時間」が適用される労働者であっても例外ではありません。賃金の支払いとは関係なく、大切な自己の健康管理の観点から、どうか、自分の労働時間は正しく把握する必要があることを再認識してください。
「会社のためにしかたがない」は本当に会社のためになるか?
  「今のような経済環境の厳しい時期に、時短になんか取り組んでいられない」という声が少なからずあることは承知しています。しかし、本来のワークルールに目をつぶり、悪条件の労働環境を甘受して働くことが、本当に企業の競争力を高めることにつながるのか、私には大いに疑問です。逆に、本当に必要な改革に目が向かなくなり、変化への対応に遅れをとることにならないでしょうか。また、スポーツでもビジネスでも、ルールを守らなければ競争は成立しません。ルールを逸脱した不健全なプレーは、いずれ制裁を受けることになります。

 今や危機的状況にある、私たちの労働時間の削減にむけて、以下の点を再確認してください。

* 職場の36協定の内容を確認し、実態がこの範囲内にあるか確認してください
* 「目標管理時間」がある場合、36協定との関係も含め、その意味を再確認してください。
* 時間外手当不支給者と「監督若くは管理の地位にある者(管理監督者)」との関係を確認してください。
* 勤務報告書には、実際の労働時間を正確に報告してください。

 時短への取り組みの力が、これまで以上に大きく、強くなることを期待しています。

疑問点や不明な点がありましたら、いつでもお問合せください。

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